米コロラド州の山奥で40年もの間、たった一人で雪の落下データを記録し続けている老人がいる。

1920年代にはもう人間が住まなくなった“ゴシック”という名のこのゴーストタウンは、アメリカでも最も寒い土地の一つ。とても暮らしやすいとは言えないこの人里離れた地で、ビリー・バールはたった一人、雪を見つめながら生きてきた。自ら建てるのを手伝ったという山小屋に太陽光パネルを設置し、今も毎日、雪のデータを記録しているのだ。

「雪が降っていて、あたりは暗く寒い。私はストーブに火を炊いて、そのそばでお茶を片手に本を読む。そうしているうちに9ヶ月も経つ。それが私の日々さ」

庭で野菜を育て、インド産の娯楽映画と帽子の収集、クリケットが好き。ごく稀に必要品を買いに街へ下りる他は基本的に小屋で過ごし、移動はスキー。そんなビリーのことを、雪の守り人“スノー・ガーディアン”と呼ぶ者もいる。

そんなビリーは今、学者たちから大いに注目され愛されている。実は彼が長年残してきた記録が、気候変動の進む地球の未来を占う上で非常に重要なデータとなっているのだ。

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<ナショナル・ジオグラフィック>による短編ドキュメンタリー・ショーケースに出品された映像作品には、雪が降り続ける彼の日常風景が映し出されている。

「そう、この日はイタチが敷地内に入ってきて、鳥たちが舞い戻ってきた」と、記録ノートを見ながら1日1日を振り返るビリー。頑固な世捨て人という風でもなく、優しいおじいさんといった柔らかな口調だ。

「私が日々相手にしていたのは動物たちと、この気候と雪だけ。だから、それらを毎日記録することにしたんだ。その方がやることもあっていいと思ったんだよ。目的は何もなかった。でもある日、研究者がこれに注目して科学的に分析しだしたら、私の個人的趣味以上のものになったってわけだ」

「雪が降り始めるのが徐々に遅くなり、雪解けもどんどん早くなっている」と言うビリーによれば、積雪量が減った上にチリやホコリが増えたせいで、近年は雪が絶対的に少なくなっているらしい。積雪量の減少は気温の変化だけが原因とは言えないようだが、水資源の多くを雪に頼る中西部にとって、雪の減少は将来的に大きな問題となりうる。地球温暖化、環境汚染は確実に気候を変化させ、人間の生活に影響を及ぼし始めているのだ。

気が遠くなるほど長いあいだ雪を見つめ続け「時間を巻き戻すことはできない」と話すビリーの目に、未来はどのように見えるのだろうか?

「でもね、例えば私の場合は移動のため、生活のためにスキーをしながら少しずつ上達していった。そうやって自分が生きる環境に順応して、暮らしてゆく術を身につけていく。それは人生のその他、多くのことと一緒だよ。むしろね、転び方が上手くなることが最も重要だったりする。頭と顔から転んでしまわないようにする技術、尻もちをつく技術が大事なんだ。顔から落ちるんじゃなくて、尻もちをつき続けられたおかげで、私は今日まで生きてこれたのかもしれないね」。

その語り口は暗さではなく、むしろほのかな明るさを湛えているようにも聞こえる。実感のこもった言葉だが、決して重くはない。雪が積もるように1日ずつ日々を暮らしてきたからこその、身のある軽さを湛えた言葉ではないだろうか。

“顔から落ちるのではなく、尻もちをつこう。気候変動に順応してゆこう”というメッセージで締められるこのドキュメンタリーが言うように、変わっていく世界に合わせてしなやかに、静かに自らを変化させていくことも大事なのかもしれない。