ミシシッピ・レコードと契約するアーティストは、おそらく誰一人として財を成そうとは思っていないだろう。しかし、例えば地元で活動するアウトサイダーフォーク界の重鎮、今年で76歳になるマイケル・ハーレイは、オーナーのエリック・アイザックソンの誠実さと明瞭な運営方針を信用し同レーベルから作品をリリースしている。

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1964年から作品を発表し複数のレーベルを渡り歩いてきたハーレイは「この男には不明瞭なところがない。見えないところがあるとしたら、それはそもそも存在しないってことだ。全部テーブルの上で見えるようにしてくれる」と証言する。

2000枚刷って、その内500枚を15ドルでライブ会場で手売りするためにアーティストに渡す。その売り上げはすべてアーティストのものになる。細かい契約内容で契約書面が埋め尽くされることはなく、双方の信頼が基本となった、小規模かつ誠実なビジネスモデルだ。

廃盤になってしまった作品や、面白いが今では聴くことが難しい78回転のレコードなどを発掘してリリースすることもある。中にはすでにこの世を去ってしまったアーティストの作品もあるが、そういった場合は存命中の親族に印税がきちんと支払われるように徹底している。例えば1994年に亡くなった西アフリカ出身のギタリスト/シンガー、S.E.Rogieの初期作品を2013年にリリースした際には、彼の息子がロサンゼルス近郊でソフトウェア会社を経営していることを突き止め、印税が彼の手に渡るようにした。

しかし、時には彼の純粋さがちょっとした問題を起こすこともある。アメリカの民俗音楽を集めた、アラン・ローマックスによる有名な「Anthology of American Folk Music」のアナログ盤をリリースした際のことである。彼はローマックスと、このコンピレーションレコードのかねてからの熱心なファンだった。その愛情もあって、リイシューすることに問題はないと思っていたのだ。

彼はバックに9万ドルを借りて、豪華な木製ケースに収められた8枚組レコードとして2000枚リリースした。しかし、後に権利を所有する<Harry Smith Estate>に連絡したところ、これが違反に当たることが発覚。1952年に発表され、アメリカ中のフォークミュージックを収集したこのレコードは、フォーク文化の“聖杯”と呼ばれるほど文化価値を持つ。ボブ・ディランもこれなくしては存在せず、1997年にCDでリイシューされた際にはグラミー賞を2つも獲得している。

だがアイザックソンの人柄と音楽愛が理解されたのか、<Harry Smith Estate>は弁護士を送り込むのでなく、誠実な説明を求めるだけだった。その結果、賠償ではなく“これ以上は刷らない”という約束と謝罪の手紙を送ることで収まったという。<Harry Smith>の担当者はこう話す。

「エリックの頭の中でどうなっているのかはわからないが、彼は社会や文化のために大事なことを誠実にやろうとしているだけだと思う。だからこのリリースに関しても、正しいことだと信じて実行した。ただきっと、彼に理解できる範囲が多少限られているだけなんだ。私は彼のことをそう理解している」

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お隣さん(同じ建物に入っている)のレストランSweedeedeeはメチャ旨の人気店

彼がレーベルを立ち上げて最初にリリースしたのは、“チター”という珍しい楽器を伴奏で歌う1920年代のゴスペルシンガー、ワシントン・フィリップスのコンピレーションだった。歴史に埋もれた貴重な音楽である。これを聞きつけたロンドンの独立系レコードショップは最初10枚注文したが、その後20~30枚単位で追加注文することになったという。店の代表は「とてもユニークで唯一無二の存在だと思う。私たちと同じような、ハートがとても近いレーベルだということはすぐわかった」と振り返る。

最近レーベルを共同運営していた友人カップルが別れ、会社も分離してしまい、その間に入って処理を手伝ってるらしく、アイザックソンが営業中に電話で「いや、そんなメールだとかで管理してたあやふやな記録じゃ契約交渉なんて無理だよ」と声を強める場面も。

「“2人とも友人だし手伝ってあげるよ”なんて言って間に入ったんだけど、バカなことしたなあ。人の間に入る役回りになることが本当に多いんだけど、お人好しすぎるよね。ちょっと直さないと」

じゃあ、君はどうやって記録しているの? と尋ねると、赤ペンで最近の売り上げをノートに書きながら「全部頭の中さ」とこれまたシンプルに答えたアイザックソン。小規模だが音楽愛であふれかえるレコードショップで、彼は今日もレーベル業務を誠実に営んでいる。
https://www.washingtonpost.com/entertainment/music/rems-peter-buck-needed-a-new-label-the-one-he-chose-wont-take-your-credit-card/2017/01/05/4543095c-c60e-11e6-8bee-54e800ef2a63_story.html?utm_term=.d674b0c898e9