米オレゴン州ポートランドのレコードショップ「ミシシッピ・レコード」。もともとインディペンデントなミュージシャン、レコードストア、レーベルが多いことでも知られるポートランドでも、異彩を放つレコードストア/レーベルだ。

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誠実で草の根的なビジネスとシンプルかつ明瞭な営業方針で、地元のみならず海外のレコードビジネスからも信頼されているミシシッピ・レコード。デジタル全盛時代におけるインディレーベルやレコードストアの原点がどういうものなのかを体現している、奇跡的な存在である。

インディロック、古いブルーズのリイシュー、アフロや世界各地の埋もれた民族音楽など、同レーベルのリリースは多岐にわたるが、最近もっとも話題となったのは、元R.E.M.のギタリスト、ピーター・バックのソロアルバムだろう。

バックは8000万枚を売り上げた、アメリカを代表するバンドのメンバーである。そんな彼が、レーベル運営という意味では非常に小規模なミシシッピ・レコードからリリースするというニュースは、業界のみならず多くの音楽ファンを驚かせた。しかも、その入手方法や宣伝については、バック側がR.E.M.のウェブサイトでミシシッピ・レコードの電話番号を掲載する……という、これまたシンプルすぎる方法だった。

リリース発表の数日後、バックはミシシッピ・レコードのオーナー、エリック・アイザックソンにばったり会った際に、こんなやりとりをしたという。

「結局どうしたんでしたっけ?」
「店の電話番号を載っけたよ」
「知ってます。その日の昼に店を開けに行ったら、ひっきりなしに電話が鳴りつづけてたので。電話線を抜きましたよ」

バックは笑顔でその会話を振り返る。

「普通に考えたら、ビッグなレコードだったら注文を受けるために、誰かヘルプを頼むとかするものだけど、彼は電話1本だけで対応してたわけだ」

同じくR.E.M.のメンバーだったマイク・ミルズ、パティ・スミスの片腕で名ギタリストであるレニー・ケイ、地元ポートランドを代表するバンド、スリーター・キニーのコリン・タッカーをゲストに迎えた待望のソロアルバムへの注文が殺到しすぎて、営業にならない。だから電話線を抜いてしまったと話すアイザックに、彼は全く腹を立てていないどころか、むしろ痛快だったようだ。

そんなミシシッピ・レコードはCDやデジタル作品は一切扱わず、基本的にアナログレコード(とカセットテープ)だけ。買いたかったら現金、もしくは小切手。通常のレーベルならば、各方面に大量のDMを送ったりアーティストにインタビューなどプロモーションをセッティングして宣伝するものだが、そういったことも一切しない。本当に最小限の営業スタンスなのだ。

驚くべきことにパソコンすら使わず、記録は基本的にノートにつける。有名アルバムをリイシューして高額な値段をつけるとか、業界で名を上げるとか、とにかく儲けたいといった野心をアイザックソンは持っていない。それは彼のポリシーというよりは、彼自身の人柄と、純粋な音楽愛によるものである。

幼少時代を孤独に過ごすことが多かったという彼は、古いブルースからイギー・ポップまで、面白そうなものなら何でも聴いたそうで、「初めからCDなんて全然好きじゃなかった。僕はすでにレコードもカセットテープも持ってたから。それ以上いらないよ」と話す。

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13歳の時に父と死別し、母親とは関係がうまくいってなかったという彼は、高校進学直前に地元ロサンゼルスを離れ、叔父と叔母が住むポートランドに移住した。当時の夢は「ビデオ屋かレコ屋の店員」だったという彼は、2003年にダメもとでレーベルを始める。“たぶん失敗するだろうな”と思いながら。

しかし失敗するどころかレーベルは存続し、ルームメイト2人と住んでいる家と、自身のレコードショップと地元のレストランが入った交差点の角に佇むビルも購入することができるまでになった。ますます営業は安定し、本来の必要最小限で誠実な運営方針もそのままに、今では海外にも存在が知れ渡っている。

アイザックソンにとって、営業成績はレコードショップとレーベルのファンの数だ。彼の音楽愛と誠実な営業スタイルを信頼するファンによって、彼のレーベルは支えられている。レーベルのサービスのひとつに“郵便での定期購入パック”というものがあるのだが、そこに何が入っているのかは事前に知らされない。アフリカのファンクかもしれないし、90年代のグランジのレコードかもしれないし、ヨーデルのレコードかもしれない。好みのものばかりではないだろう。それでもレーベルのファンは彼の音楽愛を信頼し、楽しみにレコードが届くのを待っているのだ。

インディペンデント系のレコード店が中心になって始まったアナログレコードの祭典<レコードストア・デイ>すらも「ハイプすぎる。気持ち悪い」と距離を置くアイザックソンは「このレーベルはとても繊細で壊れやすいシステムで成り立っている」と説明する。

「アンダーグラウンドシーンというのは、キノコみたいなもので、ある程度の暗がりが必要なんだ。一定の力というか誠実さがあって、僕は(世間や業界に)必要以上に身をさらさないほうがいい。ピーター(・バック)のレコードは一瞬、僕をそういう危険に直面させたんだよね。僕があまりにも早く、有名になりすぎてしまう可能性があった。僕はこれまで、規模が小さくても従業員が幸せそうですごく良かったレーベルが、その良さや方針を失っていく様子をいくつも見てきたから。そういう世界には身を置きたくない。というか、そんなに規模の大きな会社がどうやって運営できるのか、僕には見当すらつかないんだよ」

<続く>

https://www.washingtonpost.com/entertainment/music/rems-peter-buck-needed-a-new-label-the-one-he-chose-wont-take-your-credit-card/2017/01/05/4543095c-c60e-11e6-8bee-54e800ef2a63_story.html?utm_term=.4bc5ae5d5d21