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2回目となる今回は、SITE氏が影響を受けた人や物、そして出来事などをうかがっていきたい。夢半ばで足を止め、シーンからスピンアウトしていくプレイヤーが多い中、どうして彼はBボーイカルチャーの最前線で精力的な活動を続けることができるのだろうか。じっくりと、そのモチベーションの源泉を探索していこう。

※Vol.1はコチラ→ハスリンする映像作家、SITE氏が持つ「才能のコンパス」Vol.1

 

それをするしかない状況を自分で作る

 

― SITEくんの過去の発言で「簡単にやめるとか言わない方がいい」っていう言葉が印象的なんですが、その心は何なんでしょう?

それは多分、上ちょ(サイプレス上野)と前にやっていた『レジェンドオブ日本語ラップ伝説』っていう対談での発言だと思うんですが、要は『スラムダンク』(※漫画家・井上雄彦による説明不要の名作)で安西先生が言う「あきらめたらそこで試合終了ですよ?」ってことなんですよね。中1くらいだったと思うんですが、コミックでいうと8巻の終わり、三井寿が不良からバスケ部に戻ってくるあのエピソードを読んだ時に、初めて漫画で泣いちゃって。あと陵南戦で木暮君が3ポイントを決めた時もバスケ部の仲間と一緒に読んで感動して、その日の練習は熱が入りまくったりとかあったんですが(笑)。あれもまさに「継続は力なり」ってシーンで。

これは声を大にして言っておきたいんですが、「HIPHOPは文化だし生き方だ」っていうのに異論はないけど、俺はラップの本質はラップ・ゲーム、要はルールがある中でのスタイルウォーズにあると思っていて。そういう側面から見ると、日本はラップが上手くてもゲームが下手な人が多いと思っています。NO LIMIT(※ニューオーリンズを拠点とするレーベル。90年代後半からゼロ年代前半にかけて、全米にダーティーサウスブームを巻き起こした)のマスターPも、実はバスケが超上手いんです。ラップは大雑把でもゲーム運びが抜群に上手いから、一世を風靡することができたと思うんですよね。だから俺がMVを撮る時は、その時々のゲームの流れの局面と、アーティストのキャラや得意技、カメオで出てくれる仲間とか手持ちのカードを全部並べて照らし合わせて、そこから一番ハネそうな作戦を考えるんです。

 

― なるほど。そこでまたバスケが繋がってくるんですね。その「作戦」についてもう少し具体的に教えてもらってもいいですか?

みんな海外のMVやファッションを勉強して真似もして、最新の撮影機材を使って、いかに本格派っぽく取り繕って見せるかってことに必死だけど、そんなのはあくまで表面的なことで、実はどうでもいいことなんですよ。大切なのは、ゲームの主導権を握るためにチームが一丸となって、できることを全力でやる。当たり前のようだけど、個人プレーばっかでそれができてないプロジェクトがすごく多い。

俺も元々はSEEDAくんの『街風』とかノリキヨの『Outlet Blues』のA&R(※Artist and Repertoire。アーティストの発掘、契約、育成などを担当)をやってたし、商売柄いろいろなレコード会社のディレクターに会うんですが、アーティストからしたらアルバムを出すことは人生の中でも特に重要な出来事なのに、一見ちゃんとしてそうなメジャーほど、アーティストの人生より上司への報告書のことしか考えてない人が多くて。インディーズも単に仕事が出来ない人は多いですが、ガッツがある人も多い。あと、インディーズの頃はすごい情熱的だったA&Rの人がメジャーにヘッドハントされて急につまらなくなっちゃうこともありましたね。アーティストとレコード会社の関係は売れなかったら契約が切れて終わりだけど、A&Rと会社との関係は会社を辞めるまで続くわけだから、そうなる理由もわかるんですが、「それって本当のチームじゃないじゃん!」って思います。タイアップとかで派手に盛っても、今の子たちは「この施策っていくら金がかかってるんだろう?」とかゲスなことを考えて、逆に冷めちゃったりするんですよ。俺が撮るMVはアルバムの中の1曲かもしれないけど、今後のキャリアも考えて、アーティストにとってベストだと思うアイデアを提案します。そこらへんもプレイヤー出身じゃないとわからないことは多いと思いますね。

ちょっと話を戻しますが、やり続けるってことに関してはHevi氏っていう大阪のOGの人がいて、その人は「COSA ONE」ってタグネームで90年代初頭に大阪で一番最初にグラフィティを始めたパイオニアの一人で、ドッグタウンからスポンサーを受けていたこともあるスケーターで、コラプテッドというアンダーグラウンドだけど世界的に有名なバンドのボーカルもやってた先輩なんです。昔<Wheel>というスケート雑誌でインタビューしたときに「スケートやグラフィティ、バンドなど、ずっと続けている秘訣は?」と聞いたら、「それをするしかないような状況を自分で作る」って言ってて。選択肢は無限にあるけど、やっぱり人の時間は有限だし、選択を間違ってもやり直しはきかないわけじゃないですか。当たり前のようだけど、その答えにすごく納得して。

 

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1997年にCORRUPTEDがFRIGIDITY DISCOSレーベルからリリースした、 40分以上にも及ぶ大作1曲を収録したCD

 

― でも、嫌んなってやめちゃうこともあると思うんですね。たとえばラップをしていて、自分より上手いヤツが出てきてしまったり。でも、SITEくんは止めませんよね。

俺はラップじゃ第一線で活躍するようなプレイヤーにはなれなかったけど、やっぱ単純に好きなんですよ。ライムスターの宇多丸師匠が言ってたんですが、HIPHOPは「俺はこうだ」って一人称で表現するから、いわば反カラオケ的な文化なんですよね。誰かのラップを聴いてヤバいと思っても、歌詞も「俺が幡ヶ谷出身のSITEだぜ」みたいな、すごいパーソナルで具体的な話だし、歌謡曲みたいに「僕」と「君」の話じゃないから、安易な共感を許さないというか。

バンドなら好きな曲をコピーするところから始めればいいけど、HIPHOPはそういうわけにはいかない。「HIPHOPをやりたい」と思ったら、自分自身をゲームにエントリーするしかないんですよ。俺が日本語ラップシーンきっての鬼才だと思ってるMCのメテオは、何年かに一度病む時期があって、落ちてる時は「ラップ辞める」とか言い出すんだけど、結局一番好きなことだし、やっぱりそれしかできないからヨタヨタと戻ってきちゃう。メテオが今やってるMMRとか、そういう経験も踏まえての極致なのでクッソ面白いですよ。俺もそんな感じでやってたらいつの間にか中年だけど、多分ジジイになっても腰履きで散歩しながらフリースタイルして、溜まり場で仲間とチルしてるんだと思います。

 

― SITEくんは“やめていないこと”が多いですよね。何かを止めて何かを始めるんじゃなくて、ずっと続けていることが多い。

ラップもグラフも、もはや趣味だから締め切りがあるわけじゃないし、サボってばっかですけどね。昔から尊敬しているロウブロウ・アーティストのロッキン・ジェリー・ビーン先生が「好きなものを部屋にピンナップすれば忘れることがないから、俺の作品もどんどんピンナップしろ」ってインタビューで言ってて。朝起きたら着替えながらピンナップを見て、夜寝るときにもそれを見ながら寝る。俺もマイブームはその時期によって色々あるけど、ピンナップさえしてあれば10年前、20年前に熱中してた自分の気持ちや想い出も一緒に留めておけるというか、無理して続けてるわけじゃなくて、それを本当にずっと実践してるだけなんですよね。やっぱ人生色々あるから好きなことばっか考えてられない時期もあるけど、そんな時でも自分の好きなものが無意識に視界に入ってくるようにしてます。

それと共通する部分もあるんですが、自分の頭の中を本棚やDVDの棚に反映させて、単に収納としてだけじゃなくてマインドマップとして使ってます。ジャンルが違う本でもグラデーションを作って全部が繋がるように配置して。俺以外誰も気付かないけど、しょっちゅう本の並びを入れ替えたりして、本棚と一緒に頭の中も整理します。人の事務所とか部屋に遊びに行った時もまず本棚を見て、どういう人か当たりをつけて話をするとディープな話ができて仲良くなれるんですよ。適当にぶっこんじゃったらそれはただの収納とモノだけど、俺にとっての本棚とかラックは俺自身の外付けHDDみたいな、すごく有機的なものなんです。

 

― そこが自身に影響を与えているんでしょうか?

そうですね。自分を高めてくれる「最強のベッドルーム」を作るというのは心がけています。クラブとかチャートはビジネスだし、その時々で流行りや廃りがあるけれど、ベッドルームはどんな時代でも全世界共通だと思ってて。

俺がHIPHOPで一番好きな曲がビギーの『JUICY』なんですけど、あの曲も「昔は<WORD UP MAGAZINE>に載ってたヘヴィDソルトンペパがリムジンに乗ってる写真を壁にピンナップして夢見てた」ってライムから始まるし、J-COLEの昔の部屋の写真(※Via:Complex)を見たら、やっぱり好きなアーティストの切り抜きやポスターをピンナップして貼りまくってて、なんだよ俺と一緒じゃん! みたいな。ピンナップで埋め尽くされたベッドルームって、好きなものが絡み合って蔦みたいに壁を侵食していって、大友克洋の『童夢』(※漫画家・大友克洋が代表作『AKIRA』前夜に発表した超能力SF作品)に出てくるおじいちゃんの部屋がそんな感じでしたけど、部屋自体が一種の生命体みたいになるんですよ。それこそ『2001年宇宙の旅』のラストみたいな。『ストレンジャーシングス』にも「キャッスルバイヤーズ」って秘密基地が出てくるけど、子どもの頃から『おおきなきがほしい』って絵本とか、児童文学ならE.L.カニグズバーグ(※ブロンクス出身の児童文学作家。2013年没)の『クローディアの秘密』とかヴァージニア・ハミルトン(※同じくアメリカの児童文学作家。アフリカ系)の『ジュニアブラウンの惑星』みたく、秘密基地を作る話が大好きでしたね。

 

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SITE氏のピンナップコレクションの一部

 

友だちに置いていかれたくないから(笑)

 

― SITEくんのモチベーションの源ってなんなんでしょうか?

それはもう友だちや仲間の存在ですね。周りが常にイケてるから、それに置いてかれたくなくて、自分に発破をかけてる感じです。タイミングで、それがNORIKIYOの時もあればPUNPEEに思うこともあるし、スタジオ石麿くんMMMくんの時もあるし。友達がブレイクしそうになる瞬間に、ただの傍観者でいたくないんですよね。『弱虫ペダル』(※自転車ロードレースに青春をかける高校生たちを描いたコミック作品)じゃないけど、先頭の後ろは実際、風の抵抗も少ないし、誰かがちょっとバテても交代しながら勢いで一緒に高みに行ければ、みんなで同じ景色を観られるかもしれない。BRON-Kの『何一つ失わず』の歌詞みたく、やっぱり成功の美酒は大勢で飲みたいっていうのもあるし。

先に進んだ経験からいろいろ教えてくれる人が先輩で、それを自分なりに咀嚼して伝える対象が後輩だと思うんですが、先輩から凄い影響を受けても、同じインパクトで先輩が俺の影響を受けることはあんまないし、後輩はその逆だし。それよりもビリヤードみたいに、俺と出会ったことでお互いの人生に何かしらの変化がある人たちが盟友っていうか、友達だと思ってます。「先輩/後輩」って言っちゃったけど、重要なのはお互いに影響を与え合えるかってとこで、年齢は関係ないんですけどね。

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SITEによって膨大に収集された日本語ライナーノーツ

 

― SITEくんはどこで情報を集めているんですか?

10年くらい前までは、ひたすら渋谷と新宿のタワーブックスに入り浸って海外の雑誌とか読み漁ってたけど、最近はさすがにネットが多いですね。でも、ネットだと検索したものとか関連した情報しか出てこないけど、店舗に行けば全く知らないものも目に入ってくるから、定期的に本屋には行きます。普通に大型の本屋で新刊をチェックするのも好きだけど、時空を超えた出会いがあるので、やっぱ古本屋の方が好きですね。

渋谷にフライングブックスって古本屋があるんですけど、アートブックや絵本もセンスがいい感じのが揃ってるし、値段も良心的なのでオススメです。ビートニク系の本とかも充実してて、親の本棚を思い出す感じもすごい好きですね。店員さんも俺の趣味を知ってるから、コレクターが大量に本を持ち込んだ時とかに「こんなのありますよ」って教えてくれたり。この店は<BLAST>でライターをやってた古川耕さんに紹介してもらったんですが、古川さんがここのオーナーと一緒にやってるレーベルから小林大吾っていうポエトリーリーディングの人のアルバムや、元スピリチュアルジュースのアトムくん、元smrytrpsタカツキくんがやってるSUIKAってユニットのアルバムも出してたり、場所の特性を生かしたユニークな本屋さんだと思います。

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フライングブックス

東京都渋谷区道玄坂1-6-3 渋谷古書センター

 

あと、数年前にオーナーさんが変わって今はお店の名前も変わっちゃったらしいんですが、三鷹台にあったビーラビッツって古本屋も相当ヤバかったですね。

ここは絵本専門の古本屋なんですが、びっくりするくらい安くて品揃えも良いんですけど、今は引退して隠居しちゃった店主のおばさんのキャラがヤバくて。「昔こんな本を読んだんだけどタイトルが思い出せない」っていうと、「ちょっと待って」って言ってその本を持ってくるんですよ。なんせセレクトがいいからプロのデザイナーが海外の絵本を何十冊も大量買いすることも多かったらしいんですが「本当はああいう人たちには売りたくない。一冊一冊に思い入れを持ってくれる人に売りたい」とか平気で言っちゃうような人で、最高だなって思いました。谷口ジローさん(※漫画家。『孤独のグルメ』『事件屋稼業』などの作品で知られる)の漫画にも出てきた名店ですね。

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獏(元ビーラビッツ)

東京都三鷹市井の頭1-31-19

 

今回は、そんなSITE氏に影響を与えたというブックの数々を紹介してもらいつつ、幕を閉じよう。

 

1. ワイルドQ/中尊寺ゆつこ マガジンハウス(1996年)

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HIPHOP系の書籍の中でも特にアンダーレイテッドな一冊。著者の中尊寺ゆつこさん(2005年逝去)はバブル期に“おやじギャル”を流行らせた人としても有名だけど、これは95年に『POPEYE』で連載されてた漫画で、瀬戸内海の漁村で暮らす田舎者だった主人公の大之介(DSK)が、単身乗り込んだブルックリンで生のHIPHOPを体験して、一人前のB-BOYを目指すギャグ漫画です。

連載当時は雷とかギドラのハーコー日本語ラップ全盛期だったから「主人公がワナビーすぎるんじゃないか?」とか、現場のラッパーからいろいろ文句を言われたらしいんだけど、中尊寺さんは「そんなに言うんなら待ってろ」って言って、TOKYO FMの重役に直談判して「HIPHOPナイトフライト」の枠をゲットしてきてYOUさん(YOU THE ROCK)にあげちゃうようなスゴい行動派で。そこらへんの経緯もあとがきで詳しく書いてあるんだけど、用語解説にK-DUB SHINE、解説に宇多丸師匠とメンツも完璧。後半、主人公のDSKが帰国して東京に行くところを描くために、日本語ラップのイベントにも通いまくったらしくて。当時「漫画を描くにあたって取材はしない」って公言しちゃってた井上三太の『TOKYO TRIBE』より全然リアルだし、資料的価値も高いと思います。細かいところだけど、元グラフィティライターで最近はファッションブランド「BBP」のデザイナーもやってるKCDさんがアシスタントをしてたから、前編のNY編ではCOPE2とかNEONとか実在するライターのピースが壁に書いてあったりして、ライター目線で見ても結構面白い。古本で見つけたらぜひGETほしい一冊です。

 

2. 誰がラッパーを殺したのか?/小林雅明 扶桑社(1999年)

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著者の小林雅明さんは、前出の中尊寺ゆつこさんの旦那さんなんですが、USのヒップホップを正しく翻訳するということにすごくこだわっている人で、2パックとビギーに起きた悲劇とその背景が上手くまとまっています。この本が出るまでは、その2人のことは知ってても、ブラッズとクリップスのルーツとか、LA暴動の原因とかの基礎知識がなかったので、これを読んで勉強しました。ギャングスタラップの教科書ですね。デスロウ(Death Row Records)のことを扱った章とか読むと、「会社内にブラッズとクリップスが両方いるから朝出社したら床が血まみれだった」とか、ストリート・ギャングそのまんまのノリで会社やっちゃってることに驚きました。まあ、そのノリが原因で東西抗争が加速して悲劇を生むわけなんですが。

スヌープの1stアルバムが出た時に俺は中2だったんですが、まだ殺人事件の裁判中でギャング的な側面ばっか話題になってたけど、当時すでに600~700万枚とか売れてたんだからめちゃくちゃですよね。これは本に書いてあるわけじゃないんですが、スヌープを無罪にした弁護士がO.J.シンプソンの弁護士と同じ人なんですけど、その弁護士には当時高校生の娘がいて、裁判中のスヌープが父親の事務所でウィード吸いながら話してるのを見て「この人バカじゃないの? 信じられない」って思ってたらしいんです。でも、結局スヌープに初めて草を吸わされちゃったらしくて。その娘は後に医療大麻の合法化においてすごく重要な働きをして、Netflixでも観られる『Weeds~ママの秘密』ってドラマの主人公のモデルになった“Dr.ディナ”って人で、今やスヌープの草の師匠という、よく分からないことになっていて(笑)。去年LAに行った時にDJ 2HIGHくん(※スヌープ・ドッグ、ダズ・デリンジャーらが率いるクルー「THA DOGG POUND」に所属する唯一の日本人メンバー)にディナを紹介してもらったんですが、とても美人で聡明な人でした。

 

3. ギャングスタ・ラヴ/ゴンゾ スペースシャワーネットワーク(2001年)

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当時HIPHOP・R&B系で一番読まれてた音楽雑誌<FRONT>と<BLAST>はNYのHIPHOP至上主義で、日本ではギャングスタラップが不当な評価を受けていた時代に、フラミンゴスタジオのゴンゾさんたちが中心になって<Black Music Review>誌の連載で仕掛けていたギャングスタ・ラップ・ムーブメントの集大成的な本です。

フラミンゴスタジオの首領、テリー湯村さんは元祖へたうまイラストレーターとして有名だと思うんですが、永井博さん(※日本のイラストレーター、グラフィックデザイナー。大瀧詠一の「A LONG VACATION」のジャケットを手掛けたことで知られる)みたいに黒人音楽に精通してて、イケてる不良中年の鑑としても憧れますね。そんな人たちが集めた、いわばギャングスタラップの図鑑なんですけど、当時ギャングスタラップの情報なんてUSでも<MURDER DOG MAGAZINE>くらいしかメディアもなくて、すごいマニアックなジャンルだったはずなんですが、いま答え合わせしてみても大体合ってるんですよね。紹介の仕方もギャングとしての側面よりも“エロジャケ特集”とか、すごくふざけてる文章で書かれているんですけど、フラミンゴスタジオで鍛えられた編集能力のなせる技か、情報量が多くてすごく正確なんです。出てくる人たち全員超マニアなんで。この本に載ってるCDが異常に高くなったりと弊害もあったんですが、もはや権威ですね。

あとギャングスタラップ界ではPEN&PIXCEL(※1992年から2003年まで活動していたテキサス州ヒューストンのデザイン事務所。文字をダイヤで埋め尽くすなど独特のセンスで人気を集めた)っていうグラフィックチームが手がけた、悪趣味でギラギラなジャケが大流行してたんですが、そのスタイルが日本のギャル雑誌でも使われまくるようになったのは、俺と上ちょの『レジェンドオブ日本語ラップ伝説』の装幀をやってくれたフラミンゴスタジオ出身のヨックスくんの仕業だったりします。

 

4. サイエンス・オブ・ラップ/KRS‐ONE(著)石山淳(翻訳) ブルースインターアクションズ(1997年)

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ハウ・トゥ・ラップ系の本では初の書籍の翻訳版ですね。ちょっと前に出てた『ハウ・トゥ・ラップ』って本はラップを譜面に起こしてテクニカルな面に迫った名著なんですが、この本はテクニックの説明はほどほどに、ロードマネージャーのあり方なんかも指導しつつ、精神論が半分くらい。まあ、そこは著者のKRS-ONEのラップスタイルによるところも大きいと思うんですが。たとえば、「自分がどこから出てきたのか忘れるな」とか「ライブ中にちょっとずつ服を脱いで観客の気持ちを盛り上げていけ」みたいな(笑)。これも今は絶版になっているけど名著ですね。翻訳は石山淳さんて方なんですが、KRS-ONEを信望してたジブさん(Zeebra)が翻訳協力してるのでラッパーの人も読みやすい文章になってると思います。

10年以上前にNORIKIYOがやんちゃして捕まってた時に、この本に書いてあることをまとめて手紙で送ったことがあったんですが、中で繰り返し読んですごく勇気づけられたって言ってました。

 

5. センテンス/パーシー・キャリー、 ロナルド・ウィンバリー バーティゴ(2007年)

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MFグリムというラッパーの自伝です。昔、知り合いを通じてこれの絵を描いている黒人のアメコミアーティストのロンにも会ったことがあるんですが、絵もすごく上手いし構図とかのセンスも良いですね。MFグリムはKOOL G RAPの弟分で、NYのギャングスタラップのオリジネイター的な存在。たぶん契約の問題で曲名までは明かされていないんですが、「クロニック」の収録曲のゴーストライトとかをしていたらしくて、スヌープやDr.ドレーも一瞬登場します。マイメンだったロードフィネスが89年にバトルで勝って有名になるのを横目で見ていて、自分も一念発起してバトルに出場するんですが、当時世界で一番即興が上手いって言われてたスーパーナチュラル(※14:30〜)に負けて意気消沈するシーンがあるんですが、ライムも当時のリアルな記録だからすごい生々しくて。そんなこんなでラッパーとして大きな成功を手にすることができなかったから、グリムはハスラーとして生計を立てていたんですが、雪の日に銃で襲われて生死の狭間をさまよって、今でも車椅子で生活しています。

アンダーグラウンドHIPHOPのアイコンであるMFドゥームとMFグリムでMFコンビを組んでいた時期があるんですが、DOOMが成功した時もグリムはアンダーグランドのままで、昔の相方が成功するのを横で見ているシーンもリアルで切ないです。HIPHOPに関する色々な要素が詰まってるし、MCバトルの歴史的に見ても貴重なコミックなので、バトルブームが過熱してる今だからこそ読んで欲しい一冊ですね。

 

※第3回に続く。