ニューヨーク・クイーンズの公共住宅クイーンズブリッジハウスで生まれ育った、エイプリル・シンプソンさん(54歳)。自身も喫煙者である彼女は、赤れんが造りが目を引く、6階建て同住宅の居住者協会の理事長を務めている。

しかし、2017年から連邦規則の改正により、彼女が住む公共住宅では完全禁煙化を実施。シンプソンさんが長年愛煙してきたニューポートシガレットを楽しむこともできなくなる。

この禁煙化の動きには賛成しているというシンプソンさんだが、同時に喫煙歴10~20年の愛煙家にとって、突然の禁煙化は「かなり厳しいのでは」と語る。ましてや居住空間での実施とあって、彼女は「子どもに飴を与えておきながら、お預け! と言うようなもの」と例える。とはいえ実施後の違反者への罰則は、いまのところ不明瞭だ。

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全国的な喫煙廃止については、つい先月、住宅・都市開発省(以下:HUD)によりに発表されたばかり。新年早々……とはいえ、各住宅機関が事実上このポリシーを実施するには1年半の猶予が与えられる。その間、公共住宅機関の関係者たちは違反者への罰則を含めた“完全禁煙化”の難しさに頭を悩ませることになるだろう。

94万以上の世帯に影響を与えるとされるこの動きには、タバコに起因する脳卒中、心臓病、がん(特に肺がん)など発症リスクを抑えたいというのが一番の理由だが、もちろん受動喫煙が子どもに及ぼす悪影響は、さらに深刻だ。

喘息の発作、呼吸器疾患などの発症リスクが高まり、仮に禁煙の集合住宅に住んでいても、近所に喫煙者がいれば少なからず子どもはその影響を受けるとする研究データもある。タバコによる火事のリスクや修繕費もさることながら、建物の換気や空気をクリーンに保ったとしても、副流煙によるリスクは完全に排除できるものではない(※2016年 米公衆衛生局長官発表)。

受動喫煙の健康被害から子どもたちを守ると同時に、禁煙化の実施は健全なコミュニティ作りの一環である、と<HUD>のジュリアン・カステロ氏は話す。

公共住宅の居住者の多くは禁煙化に前向きで、<HUD>には多くの賞賛の声が寄せられる一方、国がそこまで介入することは「市民の自由を奪うもの」といった反対意見もある。その中には、「例えば、車いすの生活を余儀なくされる住人に対しても、政府は一括りに建物内での禁煙を強いるのは、明らかに差別ではないか?」との抗議の声も含まれるという。

実施されれば室内のみならず、建物内の共有スペース、さらには建物の25フィート(約7.5メートル)以内が禁煙エリアとなる。タバコ以外に、葉巻、パイプ、水タバコも対象で、<HUD>のスポークスマンいわく「電子タバコは特に健康被害が認められず、火事のリスクが高くならない」ということで、唯一対象外とされている。

<HUD>は2009年から、公共住宅機関に対して禁煙化を推進しており、すでに禁煙化を実施している公共住宅もある。それらは全国規模で始まる本格的な禁煙化に向けたロールモデルになるだろう。例えばマイアミ・デイド郡(フロリダ州)の公共住宅では罰則として、2度目までは警告(場合によっては50ドル以下の罰金)、3度目は正式な通知をした上で、それでも喫煙を続けるようであれば退去、といった対策を取っているそうだが、マイアミ・デイド郡公共住宅・都市開発部理事マイケル・リュー氏によると「実際に退去に至った例はなく、居住者も問題なく応じている」とのことだ。

また、すでに2010年から禁煙化が実施されているサンフランシスコでは、規則を守らない居住者には警告状を送り、さらに違反者に個別対応する策を講じている。サンフランシスコ住宅機関・広報係幹部のローズマリーデニス氏によると、禁煙化への理解は上々のようだ。

一方、前述したNYのクイーンズブリッジハウスでは、理解を得るのはそう簡単ではなさそうだ。アメリカ最大の住宅機関<The New York City Housing Authority(NYCHA)>により、すでに建物内の共有部での喫煙は禁止となっているものの、特に寒い日には規則を無視する居住者が多くなるんだとか。“違反者には罰金、または退去処分あり”という看板はクイーンズブリッジのそこらじゅうに立てられているが、「タバコ1本ガマンできなかったせいで、賃貸契約の解除、ましてや家を追い出されるなんて妥当な処分とは言えない」とシンプソンさんは話す。

しかし、退去処分については<HUD>も同意見。同スポークスマンが<The Verge>に寄せたメールには「退去処分は最終手段であり、そこに至る前に、各住宅機関と居住者間で打開策を見つけてほしい」と書かれていたそうだ。 実際のところ、禁煙プログラムやカウンセリング、ニコチンパッチなどの支給なしで、禁煙化の実施はかなり厳しいのが現状だろう。<NYCHA>主催の禁煙プログラムは、すでに市内4カ所で実施済みで、禁煙化拡大のタイミングでさらに追加される計画。同スポークスマンは「タバコをやめたい喫煙者のサポート体制は、実施の上で必ず組み込みたい。」と話している。

なお喫煙者へのサポートとして、教育、カウンセリングなどを組み込む住宅機関もある。違反者は州の保健省から禁煙補助の支援を受けており、前日のリュー氏は「支援する気持ちを大切に、教育材料を提供できれば、大変ではあるがきっと成功するはず」とコメントしている。

実は、白血病のため医者からタバコをやめるよう注意を受けているシンプソンさんは、NYのプレスビテリアン病院の禁煙プログラムに通い、1日あたりの本数を16本から8~9本へ減らすことに成功した。そんな彼女にとっても、来年からの禁煙化が功を奏すかもしれない。

「タバコは吸い続けたくないわ。健康上、良くないことは百も承知。孫たちの卒業も見届けて、結婚式にも参加したいもの」

 

http://www.theverge.com/2016/12/17/13987432/smoking-ban-public-housing-urban-development-health